あなたも元・双子かもしれない。消えたもう1人の正体「バニシングツイン」とは
もしも自分が、もともと双子だったとしたら。
もう1人の”きょうだい”は、自分が生まれる前に消えていた——しかも、自分の体に吸収されていたとしたら。
ホラーでもSFでもない。これは医学的に認められた、実際に起こりうる現象の話だ。
その名も「バニシングツイン(Vanishing Twin Syndrome)」。直訳すると「消える双子」。なんだかミステリアスな響きだけど、実はそこまで珍しい話ではないらしい。
エコーに映っていた”もう1人”が、ある日消える
妊娠がわかって最初の超音波検査。画面に映ったのは2つの胎嚢——つまり双子だ。喜びと驚きの中、次の検診を迎える。ところが2回目のエコーでは、映っているのは1人だけ。もう1つの胎嚢は、小さくなっているか、あるいは完全に消えてしまっている。
これがバニシングツインと呼ばれる現象だ。双子として存在していた胎児のうちの一方が、妊娠初期(おおむね12週まで)に発育を停止し、母体の子宮内で自然に吸収されてしまう。まだ胎児がごく小さい段階で起こるため、組織は胎盤や母体に取り込まれ、痕跡すらほとんど残らない。
当事者であるお母さん自身にも自覚症状がないケースが大半で、軽い出血や腹痛がある程度。それすら「妊娠初期にはよくあること」として見過ごされることも多い。超音波検査が普及する以前は、そもそも誰にも気づかれないまま終わっていた現象だったのだ。
どのくらいの確率で起こるのか
バニシングツインは、双子の妊娠全体のうち約15〜36%で発生するとされている。研究によって数字に幅はあるが、ざっくり言えば「双子を妊娠した人の5人に1人以上が経験しうる」レベルの頻度だ。三つ子以上の多胎妊娠ではさらに割合が上がり、30〜50%という報告もある。
しかも、最初のエコー検査よりも前に片方が消えてしまっていたら、そもそも「双子だった」こと自体が記録に残らない。実際の発生数は統計に表れている以上に多い可能性がある。
つまり——大げさでもなんでもなく、あなた自身がかつて双子だった可能性もゼロではないのだ。
なぜ片方は消えてしまうのか
主な原因は、発育を停止した側の胎児が持つ染色体異常だと考えられている。受精の段階で染色体に問題があると、ある時点で細胞分裂がうまく進まなくなり、発育が止まってしまう。これは単胎の妊娠でも起こりうることで、妊娠初期の流産の大部分はこの染色体異常が原因とされている。
加えて、胎盤の形成や血流配分の問題、高齢での妊娠、体外受精による多胎妊娠の増加なども関連因子として挙げられている。ただし、いずれも「これが原因だ」と断定できるケースは多くなく、予防する方法も今の医学では存在しない。お母さんの生活習慣や行動が原因になるものではない、ということは覚えておきたい。
残ったもう1人は大丈夫なのか
結論から言えば、妊娠初期にバニシングツインが起きた場合、残された赤ちゃんは多くのケースで問題なく育ち、無事に生まれてくる。母体への影響もほとんどない。消失した胎児の組織は自然に吸収されるため、特別な医療処置が必要になることも通常はない。
ただし、一卵性の双子で胎盤の血流を共有していた場合は、片方が亡くなることで血流バランスが崩れ、残された側に影響が出る可能性がある。また、妊娠中期以降に起きた場合は、完全に吸収されずに「紙様児」と呼ばれる圧縮された状態で子宮内に残ることもある。これは双子妊娠の約200件に1件と、かなりまれなケースだ。
二人分のDNAを持つ人間「キメラ」
さらに興味深いのは、吸収が不完全だった場合に起こりうる「キメラ」という状態だ。消えた双子の細胞が残った側の体内に取り込まれ、1人の体の中に2種類のDNAが共存するようになる。体の部位によって遺伝情報が異なる人間が、実際に存在しているのだ。
遺伝子検査をしたら「自分の子どもが遺伝的には自分の子ではない」という結果が出た女性の事例が、過去に海外で報告されている。調べてみたら、その女性の体内に吸収された双子のDNAが卵巣に残っており、そちらの遺伝情報が子どもに受け継がれていた——という、にわかには信じがたい話だ。
知らなかった”もう1人”の存在
バニシングツインは、悲しい出来事であると同時に、生命の神秘を感じさせる現象でもある。自覚症状もなく、記録にすら残らないことも多いこの現象は、超音波技術の発展によってようやく「見える」ようになった。
自分がもともと双子だったかもしれない。そう考えると、なんだか不思議な気持ちになる。
あなたの隣にいたかもしれない、もう1人。その存在は消えてしまったけれど、「かつてそこにいた」という事実だけは、確かに残っている。


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